2002/05/12 | |
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Subject: 植木の職人さんのお仕事に関する質問(ご返信のご依頼) > 有限会社木下庭園管理 代表取締役 木下透 様 > 拝啓 時下ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。 > 突然のメールで失礼致します。 > インターネットで御社のホームページを興味深く拝見させていただいたのですが、 > 植木職人さんのお仕事についていくつか教えていただければと思い、ご連絡を差し上げた次第です。 > 申し遅れましたが、私は△△と申します。 > 県内に住む31歳の元会社員で造園の仕事は未経験なのですが、 > 思うところあって今後は造園関係の仕事、特に個人住宅等の庭園づくり・管理の仕事に > 就きたいということで、現在、植木職人さんという仕事に関する情報収集を進めております。 > しかしながら、私がこれまでしてきたデスクワークの仕事とは内容が大きく違なることもあり、 > また、周囲に造園関係の事情に明るい知人が少ないこともあり、 > 少し詳しい話になると良くわからない点も多く困っている状況です。 > つきましては、私事で大変恐縮ではございますが、 > 実際に植木の職人というお仕事をなさっている木下様の様な方から、 > 是非とも参考になるお話をお伺いしたくお願い申し上げます。 > ご質問させていただきたい事項は以下の3点です。 > 質問はできるだけ簡潔に書かせていただいたつもりでおりますが、 > 意味がわかりにくい部分等があれば、お手数をおかけ致しますが、 > その旨ご指摘をいただければ幸いに存じます。 > ご多忙の折、長いメールにて大変厚かましいお願いを申し上げ誠に恐縮しておりますが、 > 是非ともお力をお借りできればと思います。 > お手すきの時にでも、ご返信をいただきますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。 > 敬具 > ■ご質問させていただきたい事柄 > ●質問1.独立に対する理解、独立までに要する修行期間について > 植木の職人さんの場合、いわゆるサラリーマンとは異なり、 > 基本的には知識・技術等を一定の期間で身に付けて独立していくものだと聞いているのですが、 > 独立をせずに特定の親方の下で長い間仕事を続けるといった働き方もあるものなのでしょうか。 > また、独立までに要する修行期間というのは、おおむねどの程度なのでしょうか。 > 独立までに要する修行期間については、個人差等があると思いますので一概に何年という様には > 言いにくいところがあるのは承知しておりますが、 > 職人さんが一通りの仕事を習得して使いこなせるようになるという意味で > 目安としている期間といったものがある様でしたら、ご教示いただければと思います。 > ●質問2.近年において独立し営業を続けることの難しさについて > ホームページの中に「過去15年、当社から独立して3年以上営業できた者はいません」 > とお書きになっていらっしゃいますが、 > 近年において横浜市内や神奈川県内で独立し営業を続けていくことは、 > 一般的にそれほどまでに難しいものなのでしょうか。 > 普段から他社の職人さん達とも数多くお付き合いされているかと思いますが、 > 貴社以外の職人さんで近年独立された方の状況等についてご存知のところがあれば、 > その辺りを含めて是非とも参考になるお話をご教示いただければと思います。 > また、近年において独立し営業を続けていくことがそれほどまでに難しくなってい > る理由について、併せてご教示いただければ幸いです。 > ●質問3.仕事の内容の変化について > 植木屋さんのお仕事については、 > 大きく「既存の庭を管理するお仕事」と「新しい庭をつくるお仕事」とに > 分けられる様に思いますが、 > 最近は「新しい庭をつくるお仕事」というのは少なくなっているのでしょうか。 > というのも、最近は、戸建住宅に住むことなくマンションに永住する人や、 > 車庫があるだけでほとんど庭のない戸建住宅に住む人など、 > 必ずしも庭を持つことにこだわらない人が増えているように思われます。 > また、庭を持ちたい(持っている)という人についても、 > ガーデニングにみられるように専門家に頼ることなく自分自身で庭づくりをすると > いった傾向が> 一部には伺われるように思います。 > ですからあくまで素人目には、庭をつくるお仕事は少なくなる傾向にあるようにも > 思われますが、現状はどうなのでしょうか。 > 多くの植木職人さんがそうであるように、 > 私も植木の仕事に就いた際には新しい庭をつくる仕事ができるよう頑張っていきた > いと考えているのですが、 > その辺りの現状について、お仕事をされている中で > お感じになっているところをご教示いただければと思います。 > 以上 |
以下 私(木下)の回答 | |
のっけから厳しいことを一つ申し上げます。 30歳を過ぎて「〜をやりたい」というのは間違っていると 私は常々思っています。 何をやりたいかではなく、何が出来るのかを模索するべきです。 自分の一生の道は30歳で決定すべきというのが私の持論です。 何らかの事情で定年前に会社を辞めた方が 「第二の人生」と称して植木屋を選択するのが定番のようになっていますが、 人生に第一も第二もあるものかと突き放したくなります。 植木屋は確かに手取早く独立できそうな気がするのでしょうが そんなに甘いモノではありません。 多くの人が植木屋という仕事をなめていると思います。 現に何人の人が我が社を訪れ、そそくさと退散していったことでしょう。 ちょっとダメージありましたか? 普段ならこれで終わってしまうところですが 私があなたに返事を出そうと思ったのは 同種の問い合わせの中では真剣で 解らないなりに一生懸命な姿勢が見えたからです。 園芸学校を出たての女性が2年前にメールで就職を望んできたとき 「何を好きこのんでこんな業界に来るのですか? 考え直した方がいいのではないですか? 草刈りしてれば犬猫のウンコが飛び散って顔に付く、臭い、 夏場は大汗かいてブラが透ける、どろんこになる、給料安い、 汚いカッコでコンビニやお客様のトイレを借りに行かなければならない、 そんな仕事をあなたは一生やっていけますか?」 そんな彼女が未だにウチに居ることを思えば 結局本人次第なのかもしれないと、思わぬでもない。 そんなわけで今日は質問に答える気になった。 > ●質問1.独立に対する理解、独立までに要する修行期間について > 独立をせずに特定の親方の下で長い間仕事を続けるといった働き方も > あるものなのでしょうか。 私はむしろその方法がこれからの時代の職人のあり方だと思い 社員にも独立は勧めないし、終身雇用を目指している。 > また、独立までに要する修行期間というのは、おおむねどの程度なのでしょうか。 樹木剪定技術でいえば わけもわからず言われたとおりに1年 前年の復習をしながら習ったことを実践するのに1年 習得したことを元に自分なりの剪定法を確立するのに1年 自分のやり方が間違っていないかを確認するのに1年 都合4年が最低修行期間だと思います。 ただし、自分が前年どのように切ったのかさえ忘れているようでは 2年目は1年では終わらない。 自分でしっかり記録(または記憶)して真剣に取り組んでの事。 造園については理論的なことは夜中に勉強すればいいことだから 並行してやっていける。 造園の実践的なことは勤めた会社での場数に左右されるので できるだけ多くの現場に携わるしかない。 他人の仕事を休みに見て回るなどの情報集めは言うに及ばす。 私がぼんやりと従業員の成長を見ている限りは 私がコイツも一人前になったなぁと思えるのは 7,8年くらい経ってからですかねぇ。 > ●質問2.近年において独立し営業を続けることの難しさについて そもそも独立とは何でしょう? 勤めていた造園会社を「独立します」と言って辞めて、 他の造園屋から仕事を貰って下請け仕事をしているなら そんなもの独立と言えますか? 勤め先が変わっただけのことでしょう? 誰が半人前の男に高い手間を払って使ってくれますか? 自分の所でこなせる仕事量ならわざわざ外注を頼む必要はない。 そうなれば簡単にお払い箱。 明日から何をどうやってお金を稼ぐのですか? いくら手間賃が高くても「あの人はいい仕事をする」というのなら 仕事の依頼は途切れることはないでしょう。 じゃあ、そうなるまでの間どうやって実績を積んだらいいのですか? 一般のお客様にせよ、元請け業者にせよ、一度「あいつは使えない」 「あの植木屋は下手だ」と烙印を押されたら二度と仕事は来ない。 独立とは文字通り自分の力で仕事を取り 自分の力でこなしていくことです。 「独立しました」と口で言うのは簡単、言うだけならタダ。 要は中身です。自分自信が自分の仕事を仕切っているかどうかです。 なぜ最近の若者の独立が成功しないのか。 答えは簡単。仕事をなめているからです。 死にものぐるいで物事に当たる という習慣が元から無いからです。 学校行きたくなければ行かないでいい、 仕事したくなければプラプラしてても一応モノは食える。 面倒臭けりゃ避けて通ればいい。 そんな時代を生きているからです。 植木屋に勤めれば植木屋になれると勘違いしているからです。 植木屋に勤めているから自分は植木職人だと勘違いしているからです。 道を究めるということを具体的に自分で理解している人がいないからです。 自分が仕事を覚えないのは「教わっていないから」だと思っているからです。 給料が安いのは親方がケチだからだと思っているからです。 独立しても仕事がないのは「不景気だから」だと信じ込んでいるからです。 都合の悪いことを誰かのせいにしかできないからです。 自分の未熟さを自分のせいだと思うことができないからです。 勤めているより「楽になる」と思って独立するからです。 勤めているより「儲かる」と思って独立するからです。 そこには「自由がある」と思って独立するからです。 もちろん当人達は一所懸命やっているのです。 でもそんなの昔の一所懸命に比べれば、、、、 勤めている限りは「○○造園の△△さん」で通るし 一応立場も保証され、植木屋らしくも見えるモノだが ひとたび肩書きをはずされればただの△△さん。 周りの人が「植木屋さん」と見てくれるだろうか? 逆に言えば「○○造園にいた△△さん」と一目置いて貰えるような会社が 果たして全国に何社あるだろうか。 操業に失敗するのは仕事がない場合だけとは限らない。 逆に仕事がありすぎて一人で手が回らなくなったらどうします? 仲間に応援を頼む?それも手でしょうがいつも相手がヒマとは限らない。 じゃあバイトでも雇うか、それは可能でしょう。 でもそのバイトにどうやって仕事を教えますか? まあ車の運転が出来ればなんとか戦力にはなるでしょう。 簡単な仕事なら教えれば出来るでしょう。 でも現場が二つになったとき、そのバイトを一人残して 別の現場に行けますか? お客さんはそのバイトの仕事を、あなたの仕事として 当然評価するでしょう。 信用はがた落ち、仕事は来なくなるでしょう。 次の仕事をどうやって取りますか? 現場もこなさなきゃならない、営業もしなきゃならない。 そのバイト君を抱えてあなたはどうするでしょう。 帳簿も付けなきゃならない、仕入れもしないと次の現場ができない、 そうだ、材料屋の支払いにも行かなくちゃ、図面はいつ描くんだ、 何?こんな時に車が故障だぁ? バイト君が水道管を破ったぁ〜? お客さんからは矢の催促!、、、、、 、、、、、、、、どうします??? 庭木をチョキチョキやってりゃいいなら それだけでいいなら みーんながやってますって! そのうち仕事は来なくなる もらいに行っても断られる バイトをクビにしても自分すら食っていけない、、、、、、、。 たまたま舞い込んだ仕事で取り返そうとボッタクル。 手抜きで利益を得ようとする、ますます評判は落ちる。 もう仲間にも見放される。 この辺に来ると結構ダメージあるでしょ? > ●質問3.仕事の内容の変化について > 多くの植木職人さんがそうであるように、 > 私も植木の仕事に就いた際には新しい庭をつくる仕事ができるよう頑張っていきた いと考えているのですが 大きな勘違いをされている。 私は新しい庭を作りたいと思っているから そうしているのではない。 新しく庭を作ってくれ と言われるからハイと言ってやっているだけのこと。 木を引っこ抜いて車庫を造ってくれと言われれば またハイと言ってやる。 他業者が作った庭でも手入れしてくれと言われれば躊躇無く やる。 「できますか?」と聞かれるから「出来ますとも!」と答えるだけのこと。 私が仕事を選んで決めているのではない。 お客様が私を 私たちの仕事を選ぶのです。 仕事をやらせてくれと頼みに回っているわけではない。 私は宣伝のビラを捲いたのは設立当初の1回だけ、わずか二日間しか 後にも先にもありません。 宣伝しなくては客が来ないようではもう既にダメなのです。 良い植木屋なら仕事が忙しくて今以上に仕事なんて欲しくない。 仕事が一杯だからビラなんて捲かない。 ヒマだからビラを捲く、、、、? なんでヒマなの? 一度来た客が二度めは来ないから 去年の客が今年は頼んでくれないから それって なんで? ちゃんと良い仕事をしていれば仕事は増えることはあっても 減ることは決して無いはず。 手入れにしても一度やった客がまた頼んでくる、 現場の近所の人もその仕事を見て頼んでくる、 以前に造園した客が改造を依頼してくる、 親戚の家の造園をしてくれと言ってくる、、、、。 仕事の拡大はとどまることがないはず。 > 植木屋さんのお仕事については、 > 大きく「既存の庭を管理するお仕事」と「新しい庭をつくるお仕事」とに分けられ る様に思いますが、 > 最近は「新しい庭をつくるお仕事」というのは少なくなっているのでしょうか。 そんな区別はどちらでもいい。 来た仕事は確実に誠実にこなすだけのこと。 選り好みはしない ただ片っ端やるだけ。 何も考えずそうしているが 決算が終わって数字を見ると不思議なことに 毎年売上げの割合は半分半分。 来た仕事が造園であろうと手入れであろうと 何でも出来る力が自分に有るかどうかが問題なんだ。 レンガ積みでもタイル貼りでも左官でも 庭木の掘り取りでも根巻きでも 消毒でも 竹垣でも 井戸掘りでも 石組みでも 何でも出来るかどうかなんだ。 手入れは儲からない 確かに儲からない でも やる。 やってくれと言って貰えるのだからありがたく思って やる。 儲からないが損をするわけではない。 ご近所の方々にもウチの仕事ぶりを見て頂く良いチャンス。 営業だ、宣伝だと思って仕事しろ と従業員に言う。 ウチの従業員は皆、評判が良い。 「次回もお願いしますね」と言われて帰ってくる。 うまくすればお隣の仕事を貰って帰ってくる。 造園をした庭はその後もずっと管理する。 作りっぱなしの業者も多い。 造園は儲かるが管理は儲からないからだ。 でもウチは迷わず管理もする。 当たり前だ。 >「新しい庭をつくるお仕事」というのは少なくなっているのでしょうか。 > 庭をつくるお仕事は少なくなる傾向にあるようにも思われますが そんな気もするし そうでもない気もする つまりそんなことどうでもいい。 要はその仕事がウチに来るかよそに行くかというだけのこと。 とにかくウチは忙しい。 世間じゃどうかは知らんが ウチは忙しい。 ありがたいことに 忙しい。 > ガーデニングにみられるように専門家に頼ることなく自分自身で庭づくりをすると いった傾向が 一部には伺われるように思います。 > 現状はどうなのでしょうか。 最近の傾向として私が感じるのは 「プロに任せる」という 基本的な仕事の形態が崩れてきたということだ。 プロらしいプロが少なくなってきたことも事実だし、 ホームセンターの進出によって道具や材料が一般の人にも扱えるようになり ちょっと器用な人なら時間さえあればそこそこのモノは作れたり 庭木の刈り込みなども出来ないわけではない。 出来上がるものの質の追求は劣化しつつある。 素人が作ったイスでも座れればイスと見なされる。 でこぼこの地面に芝を並べただけでも「芝を貼った」ことになる。 そこそこ形が出来ていれば作品として認められてしまう。 プロも出来栄えを追求しなくなった 適当にやっても客も文句を言わない だからますます質の悪い仕事を平気でするようになる。 それを素人が見て「こんなんでいいならオレにも出来る」と思う。 プロも素人も質を追求しないから いい加減でインチキでニセモノが巷に氾濫する、、、、。 知識もないのに感覚だけでモノを言うお客さんは増えてきた。 自分がどうしたいという確固とした具体的な提示が出来ないのに とにかく職人が言う事にはいちいち反論してくる。 じゃあどうしたいのかと聞けば んーーと口ごもる、 「お任せしますよ」と簡単に口にする。 そのくせ端から任せる気など無い。 どう作っても「いやちょっとイメージが、、、」などと抽象的な否定をする。 そんなお客さんが年々増えている。 難しい、、、。 いつもプロが素人に勝っているわけではない。 自宅の庭先を見事に花で演出している人も大勢いる。 とてもプロの及ぶところではないと感じる事もある。 結構なことだ。良い物は良い。 自分で出来ないことをプロに依頼してくれればそれでいい。 大抵の人は手に負えなくなる。 手に負えなくなれば頼ってくる。それを待っていればいい。 何もお節介することはない。 かえってそういう苦労をしたお客さんの方が 我々の気持ちをわかってくれる。 素人が自分でやっちゃうからプロの仕事が減るなんて 自分の仕事に自信のあるプロは 考えたりもしない。 いずれにせよ プロに任せりゃ間違いない!などと胸を張って言える時代ではなくなった。 すっごいプロも減ったし プロの仕事をすっごいと感じる客も減った。 いやあ今日はしゃべりすぎて疲れました。 あなたもこんなに返ってくるとは思わなかったでしょう。お疲れ様でした。 で、なんの話でしたっけ? そうそう造園屋さんになりたいんでしたっけ? やってみればいいんじゃないですか? 一握りのいやひとつまみの成功者になれるかどうかは 世間の動向ではなくあなた自身の信念に掛かっているということが 納得できたのならば。 まずは具体的に動いてみることです。理屈じゃない。 いつもお相手できるとは限りませんが 困ったらまたどうぞ。 ******************************** (有)木下庭園管理/木下 透 Tel. 045-825-8801 Fax.045-825-8802 E_Mail webmaster@k-tk.org URL http://old-site.k-tk.org ********************************* なんで私が成功してるかって? そりゃあ いいカミさんと結婚したからですよ。 |