CODIT論とは
CODIT論とは、アメリカのAlex L.Shigoという人が提唱したCompartmentalization of Decay In Treeの頭文字をとって名付けられた、樹木の防衛層(壁)に関する理論です。俗に「バークリッジ剪定法」とも言います。この論理に基づき、樹木の剪定による腐朽菌の進入、進行を最小限に抑える為の剪定法を紹介いたします。
樹木の剪定のなかでも冬期に不要な大枝を下ろす場合の切断法について説明しますが、枝は大きくても小さくても切り方は同じと思ってください。どんなに細い枝でもこれから述べる方法にのっとって剪定すれば腐朽菌の侵入は最小限に留めることが出来ます。よく、店頭にある「庭木の剪定法」などの本に”少し切り口を斜めに”とか”切断面の面積をなるべく小さく切る”とかと書いてありますが、これからのお話はそういう”あいまいな”次元の話ではありません。切断ラインの答えはたったひとつしかありません。
私は従業員に最初に「剪定の仕方」を教えるとき、どういう枝を抜くとか、どういう形になるようにとかは初めの段階では教育しません。どこで切るかは追々習得すればよいことです。まず、どのように切るべきかを教えます。なぜ形より先に切断方法なのか?答えは簡単です。木を痛めたくないからです。枝を切るという作業自体、木にとっては迷惑な話でしょう。でも切らないわけにはいかない事情が私ども植木屋にも施主様にも色々とあるわけで、それならばせめて相手(木)に不満がでないようにするのが礼儀ってものでしょう?木が腐らないように切る方法を知らない奴に大事なメシのタネを切らせるわけにはいきませんから、とにかくソコを徹底的に教えたいのです。剪定が早くて出来栄えが素人目に良くても、木の寿命を縮める切り方をしていたらなんの評価もしませんし、そういう手には掃除でもしていてもらうしかありません。ノコギリとハサミさえあれば誰にでも木は切れます。かっこよく切るだけでなく正しく切る事がプロの条件だと私は思っています。
(写真1:切断例1)
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写真1は今年(2000年)枝を下ろした様子です。大きな枝を付け根から下ろすのは勇気がいります。かっこうが悪くならないかよくよく考えなければなりませんが、それは長年の経験で何とか判断がつきます。太い枝だから必ずしもその木の姿にとって大事な枝とは限りません。忌み枝になっていれば落とさねばなりません。また、なるべく小さくしてくれというお客様の要望も無視できません。忌み枝や切るべき枝は中途半端に残しても結局不要な枝であることには変わりがなく、いつかは付け根で切る羽目になります。太枝を寸胴に切って樹木本来の自然樹形を崩し、なおかつ腐朽菌を呼び込んでしまうくらいなら(図-1のAを参照)、なるべく早い時期に(木が若いうちに)将来を見越して不要な枝を判断し、付け根で一気に落としてその木自身の力で傷をふさがせたほうがよいのです。
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「勇気がいる」と言ったのは大きな枝を落とす危険や高所作業の危険などのことではなく(それも大事だけれど)切り口がうまく塞がるように切ってやれるか、ということです。私などはそのことに全神経を集中してノコを入れます。先ほど申し上げたように、切るべきラインはたったひとつしかないからです。少しでも角度を誤れば木に腐れを呼び込んでしまいます。人間なら”打ちどころが悪ければ大ケガ”になったりしますが、樹木の場合はどんなに”打ちどころ(切りどころ)”が悪くてもその場で死んでしまったりはしてくれないのですから、逆にやっかいです。何も言ってくれないので人間はいいように無茶苦茶な切り方や、木の治療と称して逆に木をいじめたりしてしまうのです。
写真2は4年前(1996年)に当社で枝を下ろしたもののひとつです。大失敗しています!申し訳ありません。こんなに能書きを言っていても失敗してしまうのです。切断の角度がゆるかった為、カルスが巻き込めないでいます。ガジガジになりながら必死でカルスを形成しようとしているラインこそ、この木が「ここで切って欲しかったんだ!」と訴えているラインなのです。あまりにもわかりやすい例なので、恥ずかしながら反省をこめて自社の失敗例を挙げました。内部の様子は図-2の(1)にあたります。
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(写真2:失敗例1)
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写真3と写真4も失敗の例です。失敗例2は角度の問題よりも切り口がデコボコだったか樹勢が弱かったかでしょうがカルスの形成が不十分です。チェーンソーなどで枝を下ろした後、切断面をカンナや専用の道具で丁寧になめらかに整形してやるとやらないとでは格段にカルス形成の出来が違ってきます(とっても面倒くさい作業なんですけど)。写真4はカルスもだいたい良いセンで出来ていて何が失敗なの?と思われるかもしれませんが、隣の枝に傷がついていますよね。おそらくチェーンソーの勢い余って隣の枝に傷つけてしまったのでしょう。恐ろしい腐朽菌はこんな傷からも侵入してしまうのです。だからこの例も大きな失敗といえるのです。
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(写真3:失敗例2)
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(写真4:失敗例3)
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図-2-(3)(4)
(写真5:成功例1)
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写真5は成功例です。写真5は去年の切り口にカルスが巻き始めたところで、平均的に同じ幅で形成されているところを見ると切断角度が正解だったようです。
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(写真6:成功例2)
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写真6~9は2年目か3年目でしょうがカルスがよく巻いています。あと1~2年で完全に塞がってしまうでしょう。写真9はこの4年の間(1996~2000年)に切ってきた跡です。どのような太さの枝でも切り方は同じです。
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(写真7:成功例2横から)
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(写真8:成功例3)
(写真9:成功例4)
それでは最後に具体的な切断ラインの決め方をお教えしましょう。写真を参照してください。写真10も11も理屈は同じです。まず、切ろうとしている枝の通り(芯)を出します。縦に引いた線がそれです。次に枝の股の部分の少し上(太さによって違うが5mm~1cm)の所から枝の通りラインに垂直に交わる線を引きます。(あくまでも枝の通りに対して直角に交わるように引いてください。地面に対して平行とかではありません。)ここで写真をよく見てください。木の股のところから下に向かってグジグジグジとひだのようなものがありますよね?これをバークリッジ(branch bark ridge)というのですが、このバークリッジと先ほどの枝の通りに垂直に交わる線(仮にSラインとします)とが構成する角度を見てください。この写真の場合だと約80度から85度といったところでしょうか。このバークリッジのラインとSラインが構成する角度を1/2に分ける角度線を引きます。この、最後に引いた線が切断線というわけです。このラインを守って枝を落とせば腐朽菌の侵入を最小限に抑えた剪定ができるのです。
最後に注意していただきたいのは、バークリッジの一番上のグジグジとなっている部分をノコなどで傷つけないこと。必ず1cm程度離してください。股のど真ん中から切ると、この大事な部分(ちょっと卑猥ですか?)をだめにしてしまいますのでくれぐれも慎重にラインを決め、正確に切断してください。
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(写真10:切り方1)
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(写真11:切り方2)
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それから、言うまでもありませんが、いきなりこの”
黄金ライン”に刃を入れるなんて無謀な切り方はしないでください。太い枝は当然上から少しずつ刻んで、”黄金ライン”の少し手前で一度切り落とし、それから大きく深呼吸してから全神経を集中して、慎重に切り進んでください。上からだとノコが入らず、下からしか切れない場合もよくあります。ラインより外側で切ってしまった時はもちろんもう一度切り直してください。ラインより内側に切り込んでしまった場合は残念ながらあなたは失格です。木に一生懸命謝るしかありません。
切り口はできればカンナ等できれいにするのが理想です。特にチェーンソーで切った場合は切断面が荒れてしまうので、ひと手間が掛けられるのならば是非お願いします。これで終わりです。え?切り口にペンキを塗らないのかって?Shigo先生は「自分の唇に塗れないものは切り口に塗るな。」とおっしゃっているそうですが、結局のところ塗っても塗らなくてもよい、むしろ何も塗らないほうがよいということのようです。私はそう言われてもやっぱり不安なのでデンドローサン(殺菌剤入りの癒合剤、確かドイツ製の)を塗っています。
最後にお断りしておきますが、私は学者ではないしShigo氏の書をくまなく読んだわけでもありません。ここに記述されているのはCODIT論についての私のあくまでも個人的な解釈です。ただ言えることは、今までの経験で
この論理は理にかなっていると確信していることです。正確な知識を得たい方は次の書物などを参考になさってください。・・・・2000年1月記述・・・
「樹木医ハンドブックⅡ」安盛 博/牧野出版
「TREE DOCTOR 創刊号」日本樹木医会
その他CODIT論に関する専門書